動物園

象を見る



朝、いつもよりゆっくり6時半に起きて、いつもと同じように朝食の用意をして、3人で食べる。
食べながら、久しぶりに家で過ごす休日をどう過ごすか考える。


昨晩は、相方の実家から私の実家に夕方に移動。妹の一家と一緒に夕飯を食べてきた。
母の誕生日だったのだが、遠征のお土産を渡したきりだったので、年末より長らくフードが壊れたままになっている食堂の照明を、今日交換してあげたいな、と思った。
ほかは、水槽に水カビみたいな糸状のものが出ているので、その掃除をしたい。
午前中は、娘とどこかに出かけよう。


近くの公園を思い浮かべていると、「今日は天気もいいし、いつか行こうと思っていた『動物園』がそろそろ行けるのではないか」と相方から提案があった。
相方の調べによると、天王寺動物園は開園が9時半。
それに合わせていけば、園内で使う子供用のカートも借りやすいし、お弁当を簡単に作っていって、それを食べれば、お昼くらいで出て娘をちょうど昼寝させることが出来る。近くの公園に行くのとそんなにかわらないのではないか、ということになった。


じゃあ、ということで、9時過ぎの電車に乗るべく、私は洗い物とお弁当づくり、相方は洗濯を大急ぎでスタートする。


早起きの習慣は、いいものである。
前もって予定していたかのように、お弁当を持って、ばっちり9時過ぎの電車に乗り込み、10時前には天王寺公園を抜けて動物園のゲートに着いた。


入場してすぐカートを借りに行った。バギーと象のデザインの大きな車があって、もう娘はその象の車に釘付けだったから、そちらを借りる。
開園20分くらいなのに、残りは2-3台だったから、結構な人気らしいことがわかる。


巨大な台車にカーボネートの象の張子が乗っかっているわけで、図体が大きく、足回りの面でもそう押しやすいものではない。
ただ、大きさが幸いして、ちょっとした荷物も載るし、乗っている娘も、まっすぐきちんと座るほかにも、立ってよし、横を向いてよし、で使い勝手はいい。
早速、象を見にいく。


本当に、森を抜け、象のいる水辺に近づいていくかのような自然なアプローチになっていて、象は、はじめ木々の合間から遠くに、やがて美しく間近に現れる。
娘は、はじめて見る本物の大きな姿に、少し驚いたようにじっと見入っていた。
動物園の「見せ方改革」、のようなものが始まってから、一度は一人で訪れたことがある。
でも、子供と来てみると「どんな風に見えているだろう」と、目線がもう一段低くなるので、さらにドキドキする感じがして、あらためて楽しむことができてしまう。


お客さんの中にはもちろん小さな子が多い。子供によっては、目の前に象がいるのに、足元の草に夢中だったりする、というようなのも見かけられて、子ども自身の興味の向かうところと連れて行った先とがかみ合うかどうか、というのが、なかなか難しいものだと思わされる。


カバなんかは、私が小さかったころのドロドロのプールとは隔世の感で、たくさんの魚が群れる澄み切った水の中で、優雅に動く様が上からも水中からも見られるし、キリンやシマウマは、街中であることを忘れるような草原で、思い思いに草を食んでいる。
帰ってから名前を挙げていたところを見ると、娘は、昔ながらのゲージ越しに間近に見たドリル(ヒヒの仲間)やシカ、タンチョウ、コンクリートの断崖を歩き回るホッキョクグマにも強い印象を受けたようだ。


ライオンのゾーンを抜けたところで11時台だったので、あまり無理をせず、かつては何か動物がいたのではないかと思われる、ベンチで囲んだ広場でカートを止め、「お弁当」にする。
娘にとって、「お弁当」は「ハレ」の最高の象徴なので、もう大喜びである。
思い立ってから、ささっと作ったものだから、大したものが入っているわけではないけれど、「おいしいねえ」と満喫した。


12時過ぎには園を後にする。
お弁当を食べ終わるころにはすでに、広場が混み始め、園を出るころになると、入り口ではすれ違いに人がどっと繰り出した感じになっていた。
娘のリズムに合わせることが、すべてに一歩ずつ早めの動きになって、快適に運ぶ。


娘を肩車して天王寺公園を抜ける。公園から地下街に降りるエレベーターの付近で娘はもう、肩の上で夢の中だった。
そのまま電車に乗り込み、30分後にはもう家に着いて、そのまま昼寝の続きとなった。
まだ休日は半分が過ぎただけ、とは思えない充実感だった。


私たちは、大きな狼が軽々と、大変な歩幅で歩き回るところや、堂々としたトラの振る舞いに興奮した。
動物園は私たち大人にとっても、おもしろい。
お金もそれほどかかるわけでないし、何より幸いなことに気軽に行ける距離にある。
一度に欲張ってたくさん見ずに、子供のペースに合わせて楽しむ、今回のような行き方が、大人にも一つ一つの動物の印象を深くして、いいような気がする。


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