はじめての運動会

みんなでお弁当



7時からお父さんは会場整備、という依頼がある一方で、本人その他は8時15分に来るように、ということであった。
しかし家から園までがちょっと遠いため、往復することは難しい。そこで、「見に来る」という両親に車を借りて、ひとり先乗りした。
両親には、うちの車で、相方や娘と一緒に後で来てもらった。
相方の家からも、両親プラス義兄の一家が見に来てくれることになっていて、娘一人に随分立派な応援団が集まるかたちになった。


7時前に着いたのだが、もう作業は始まっていた。
園庭に観覧用の椅子が組んで並べられ、道具が建物から運び出される。進行の要になるアップライトのピアノも、板で道を作りながら、たくさんの手を使って運び出される。


前日から心配された天候であるが、雲が多いものの、なんとか降らずに持ちこたえそうである。
ベテランの保護者が多く、手際よく1時間足らずで「会場」は完成し、当日の役割分担もささっと決まった。
私を含む初参加の「お父さん」たちは、まずはじっくり見なさい、ということで、仕事の割当てが軽減され、棒のぼりの紐持ちと臨機応変の搬出入の手助けだけになった。


駐車場となった河川敷と園を往復したりしているうちに、人も集まり、認可がらみの働きかけでやってきた議員のあいさつがあったりして、やがて運動会は始まった。


前夜の「講習会」には、結局相方に行ってもらった。プログラムと共に保護者の出番について説明や練習があったようだ。保護者は全員、子供の年齢別のクラス分けに応じて、観覧席の前列に靴を脱いで「スタンバイ」して座る。


園児も先生方も、「参加」する私たちも、みな素足になる。
朝の準備のとき、もう大抵寒くなってきているのに、どうしてお父さん方の多くはサンダルなんだろうか、と思ったのだが、そういうことだったのか。今日は一日、靴と靴下は席の下に置きっぱなしである。
普段し慣れないことなので、歩き回るだけで足の裏が結構痛い。


低い年齢から順に、すずめ、はと、つばめ、やまどり、たか、わし、と鳥の名前でグループが分けられていて、娘たち1歳児は下から2番目の「はと」グループとなる。
ひとグループ5-6人、というのがだいたいの規模で、グループによってすこし多かったり少なかったりする。


グループみんなでするリズム運動や、ひとりひとりでチャレンジする障害走で午前中は構成されていた。
机を、大きな板やはしご、ロープ、丸太などと組み合わせて、グループごとの「山」が作られる。
これを登っては、頂上で「きんきんきれいな‐」と手遊びを披露したあと、滑り降りたり、駆け下りたりして戻ってくるのである。


自分の席で出番を待っている間の子供たちの様子が面白くって、本番中の子供や大人を見る一方で、脇の方からも目が離せない。
社長のような座り方をしてみたり、いすの上に立ち上がってみたり、椅子の背の上に座ってみてひっくり返ったり、隣りの子とけんかしてみたりと、突っ込みどころ満載のわが子の有様には、苦笑させられっぱなしで、本当に可笑しかった。


娘は、緊張しやすいと思われているのか、障害走では本来の順番と思われるところよりも後で登場した。観衆を意識しているためか、ちょっと心ここにあらずと言った感じで、動きが重々しい。
散々「大丈夫か?」とハラハラさせる間を挟んだが、滞りなく演技を全うし、内心ほっとする。


それにしても、子供たちの体の動きは目を見張るものばかりであった。
急な板の傾斜を苦もなくとんとんと駆け下りたり、ロープを使って坂を上ったり、丸太の上をわたったり、板塀を乗り越えたりと、0歳1歳2歳…それぞれの年齢に対して、こちらが勝手に頭の中で想定していた「幼い子」の動きの枠を超えて、楽しそうに、時には勇敢にひょいひょいと体を使う。
1歳の娘がやっていたのだって、自分の背丈よりずっと高い台の上まで、はしごで上って、上で「おーい」なんてやってから、手すりのない板だけの傾斜を滑り降りてくるのだから、なかなかのものなのである。
年長の子らのかけっこは、グラウンドだけでなく、横の山坂を含んだ周回がコースになっていて、だだっと客席の間にある通路を抜けて子供たちが坂を駆け上がり、ものすごいスピードで再び駆け下りてくる。
それらはもう、何と言うか、保護者としての関心の持ち方を超えて、サーカスを観覧に来ている時と同じように、興奮を覚えるパフォーマンスだった。
来年は、ああいうことができるようになっているのか、再来年は…と驚くとともに、目に見える形で顕著に現れる、幼ない子らの「成長」のすごさを、改めて知る思いがした。


さて、小さな子らのグループの出番は、そう多くない。
障害走のほかは、グランドをかけっこで往復し、リズムの一部に参加したあと、親子で「ぶらんこ」をやって、音楽に合わせて一緒に歩くとおしまいである。
昼食後には、昼寝に入ってしまう。


一方の保護者は、おおよそ10人ずつ、座っている位置で4つのグループに分けられ、年長の子らのするリズムを、子供たちと平等に回ってくる順番で、次々とやらなければならない。
ギャロップのスキップや縄跳び、3拍子のダンス、跳び箱、綱引き…、次々と出番がやってくる。


年少のものが年長の子を見て学ぶだけでなく、その延長上にごく自然に大人がいて、先生だけでなく親たちも、楽しそうに、そして正しくやってみせることを期待される。
体を動かすことは好きなので、私はそれほど苦にならないけれど、一般的にはこれは大変なことである。
大人たちもワーキャー言いつつ、結果的に子供たちを盛り上げて、にぎやかな「運動会」らしい運動会となる。


相方や両親たちが盛大に作ってきてくれたお弁当をたくさんで囲み、うれしそうにしている娘を見て、幸せだな、と思った秋の日の午後であった。


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