連覇!

試合後のモニタ表示



私が出場する2種目は今回、4日間の大会の初日と4日目にプログラムされている。
初日の主種目で散々に崩れて、滅入っていたが、少しずつ気を取り直し、昨日午後の公式練習で久しぶりに撃ってみてからは、ようやく「課された役割をしっかり果たさないと」、という気持ちになった。


優勝経験がありながら、今回2種目とも入賞に手が届かなかったKさんは、無念さと来年の捲土重来への思いを胸に、昨日の朝、帰っていった。
その前日の夜には、すでにTさんもBR2種目を終えて、仕事のため表彰式を待たず帰っており、少しずつ選手団は小さくなり、大会もいよいよ終盤という空気が漂う。


今日の10m伏射は、朝8時30分撃ち始めだった。


この種目は、この5月にルールが改定され、これまで決勝でのみ用いられてきた、10.9点満点で0.1刻みで得点を算出する10倍精度の採点を本戦全弾に対して行うことになった。
単純に言うと、これまでの60発600点満点から、60発654.0点満点に変更されたことになる。


例年通りのことだが、この種目に限定して備える練習は、直前1回だけである。
しかし、評価方法が変化したことで戦術を転換することが必要と感じた。


これまでは、10点でさえあれば得点的にはどんな10点でも変わらなかった。優勝を目指すには、満射600点が必要で、失点、殊に後半シリーズのそれは即致命傷となる。そのため、「過失を犯す」ことへの懼れとの戦いが醸す、重々しさが常にこの競技全体を支配していた。
これが醍醐味であったともいえる。


600点を撃つ選手が複数いる場合はインナーテン(X)の多寡で勝敗が決まるので、さらにセンター(0.1刻みで10.3程度)以上を維持することが必要となる(2005年の国体では3人が600で並び、このX勝負になった)。
しかし、それ以上には高い精度を求める必要がなかった、とも言える。


今回のルール改正で、たとえば10.3はXであり、以前ならそれで十分に最高価値だったから、これを続ければ優勝だったものが、9点台を含んでいても10.8や10.9を多く撃っている者に劣ることになってしまった。
逆に9点を撃ってしまっても、それが9.9や9.8なら、10点とさほど変わらないことになり、「過失」とまでは言えなくなった。


不確定な要素を取り除き、時間をかける方が安心して精度の高い10点を撃てる。しかし、時間には制約がある。
この兼ね合いが、鍵になるのだろう、と見ていた。
その中で、どのくらいの得点水準が「目標としうる」ラインだろうか、ということを測るのが、練習の主眼となった。


連休中の練習でも、直前の公式練習でも、今の力ではシリーズ106点を越えるのは、どうも幸運を要するようであった。
シリーズ105点・トータル630点あたりが掲げうる妥当な線で、そこにどのくらい上積みができるか、という勝負になるだろう、と結論して、今日を迎えた。
それに加えて、やはり素点600点は、狙わなければならないと心に誓った。今となっては何というか、「美学」みたいなものでしかなくなってしまったのだけれど、新ルールではそこに意味がないから失点OK、というのは何となく感心しない。これまでのルールで優勝してきた意地も、少しある。
それに、ルールの変更によって無尽蔵に積み上げられるように見えるが、実は0.1点単位でしか稼げないため、いったん失点すると、それを補うことは難しい、と感じたからでもあった。


試合は静かに始まった。


これまでも単に「10点ならOK」とやっていると退屈してしまうので、「X勝負」への意識とは別に、深い10点にはこだわって撃っていた。
だから、やっていることにはさして変わりがないのだけれど、はっきり105点以上というノルマのような目標があると、10.2や10.3が出ると悩まなければならない。
滑り出しの2シリーズは、慎重に時間をかけた。中盤以降は、パフォーマンスが軌道に乗る上に、旧ルール特有の「絶対に失敗できない」というプレッシャーがなく、ペースを上げて撃つことができた。
時計と睨めっこしながら、終盤は緩まないように再び時間をかける。


常に高い精度を求められる穏やかな緊張のもと、きっちり仕事をするという感覚で、撃ち続けることができた。
時々10.2が出たものの、素点は600。6シリーズとも105を越え、2シリーズ目以降は106に近い点数を並べることができた。
最終弾を10.8として、他人はともかく、やることはやったという充実感とともに立ち上がることができた。
633.8は、ひとまず事前の目標をクリアした点数である。そう簡単には撃てないだろう、という感触はあった。


フォローアップ検査に当たったので、検査室に出頭し、帰りがけにプリントアウトへのサインをした。
射座に戻ると、チームメイトがずらりと顔を並べ、メイトンのカラフルな弾着表示にはたくさんの人が集まっていた。
60発のグルーピングを映した画面には、写真を撮りに来る人が次々訪れた。まだ2射群目がこれからあると言うのに、祝福ムードに満ちていて、ちょっと戸惑ったが、嬉しかった。


2射群目は全体的に低調で、試合の中盤には優勝を確信することができた。
ルール改正後だから、とは言え、日本新・大会新のおまけつきでの連覇である。


またしてもこの種目に救われた、というのが真っ先に感じたことだった。
総合団体成績も、この8点が効いて、入賞ラインに滑り込んだ。
飛行機の乗り遅れにはじまって、失意の1種目目、そして今日の優勝と、この大会もまた、印象深いもののひとつとして、記憶に残るものとなりそうである。


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