崩壊

10mS60M試合風景



競技第1日目。
本命の10mS60Mであった。


第2射群13:20からという、少し調整しにくい時刻だった。
朝早くに朝食を摂り、軽く散歩して、隣接するBR会場を覗いたりする。
10時過ぎに歩いて射撃場に上がり、早めの昼食を軽く摂って、準備をする。


公式練習で、頭上近くの2列の蛍光灯が気になったので、帽子を使えるように、銃器検査を再度通しに行った。
インターバルが40分も取ってあるので、会場には、やや早めに入ることになった。
1射群がまだ続いていた。


今回の会場で使われているメイトン社の電子標的は、光学的に着弾を分析する新しいタイプなのだが、アスコー社のもののようにリアルタイムで順位表示などを行う機能はないため、1射群がどのような様子なのかは、いまひとつわからないままだった。
待っている間に、いろいろな人に技術的なことや道具のことなどを尋ねられたりする。
メンタルなコンディションを整えるにはプラスではないのだけれど、こういうのは風物詩でもあり、尋ねられること自体がとても大事なことだと思う。その上で何とか対処できなければならない。


試合が始まった。


調子は、よくはない。
ここまで最近2試合の582というスコアは、現在の状態を反映したものであるし、その後それを解決するに足る練習や技術上の伸展はそれほどない。コンディションも、飛行機に乗り遅れてバタバタするくらいであるから、「その程度」である。
それでもそこそこ制御してなんとかしてきた。
しかし、今日はなんともできないくらい、ひどいものだった。
「崩壊」と言っても差し支えない、何年も経験したことがないくらいに手に負えない状態に陥る。


バランスに粘りがない。
指の反応が、スムーズに導き出せない。
OKと思ったものが、つぎつぎと9.9になる。
1シリーズに4発9.9が出る、ということが2度。
困難を感じた撃発が、さらに行いにくくなる悪循環が生じる。


95 95 95 95 97 97 574
ここまで一貫して、試合開始から終了まで苦しみ続けた試合はあまり記憶にない。


射座を離れると、一様に落胆の表情の人々が後ろにずらり。戦前に本人も周囲も想像すらしなかったレベルの惨敗である。期待を裏切って、言葉もない。
息つく暇もなく、日本海新聞のベテラン記者から取材を受けた。
私が昨年2位だったことを記者は知っていて、今回の大会はどのへんが難しかったのか、ということを聞いてきた。
昨年の優勝者が今回は出場していないから、見ていたのであろう。マイナーな種目に対しても、取材にむけて丁寧な準備をしていることが感じられて、私なりに誠意をもってがんばって答えてみる。
まだ、あまりの苦戦に呆然として、頭の中は整理できていなかったが、撃っている間に自分なりにあれこれとやっていた分析をぼつぼつと話す。


メンタルは、悪循環に陥ってからはまずい部分もあったであろうが、振り返るにそれほど今大会特有の問題があったとは思えない。出場13回目は伊達ではない。
静止レベルが高くなかったのは確かであるから、フィジカルの問題はあったであろう。
半月前から、あたらしく習慣にした速筋系のフィジカルトレーニングは、効果こそまだ疑わしいものの、疲労も含め、身体のバランスに微妙な影響を与える状態になっている可能性がある。
技術面では、会場特有の環境にきちんと対応できなかったという反省がある。
メイトン社の標的は、表示装置が大きくカラフルで反応も速い。電子標的の時は、一般的に表示変化に惑わされてフォロースルーが崩れる傾向がある。意識してそれを除く必要があるのだが、今回はモニターの置く位置を工夫するなど、物理的にそれを軽減する必要があったのではないか、と思う。
もうひとつは、標的部分にLEDの照明があって標的だけがま四角に明るく浮かび上がり、周囲は逆に暗い、という独特の光環境が与える影響について、配慮・分析が足りなかった、ということがある。その他の標的の時と明らかに異なる目の使い方になっていることが、4シリーズ目の途中になってようやく気づいた。
97 97と、大したことはないが、5・6シリーズがそれまでと比べてパフォーマンスが少し戻ったのは、目の使い方を戻したことによる。意識して目の使い方を変えることは、トレーニングできていないので、この程度ではあったが、バランスの粘りと目の使い方が大きく関わっていることを、痛いかたちではあったが、実感できたことは収穫とせねばならない。


国体で出場しながら入賞できない、という経験は2005年以来久しぶりである。
まだ1種目残っているので、切り替えなければならないのだが、今の時点ではとても難しく感じる。
国体の結果は、他の大会とはまた異なって、自尊心を掛けている部分があることを、痛感する。
来年の千葉は、会場的には決して相性のいい感じはしないが、雪辱をせねばならない。


ここまで堕ちてしまう、ということを知ってしまったのは、まことに余計なことで、これは大変な負の財産である。
ここに挙げた分析で説明しきることができるものなのかどうか、しばらくは不安を抱えながら射撃をせねばならない。
つらいことであるが、変化のさなかであったからだ、と今は結論したい。
フィジカルを含めた、今のライフスタイルに合わせたトレーニングを構築し、維持することで、新生することを目指そうと思う。


[fin]