全日本選手権

試合の様子



昨晩職場を定時より30分ほど前に出させてもらい、空路仙台空港を経て、鉄道で会場の石巻市に午後11時過ぎに入った。
出番は今朝9時からの第1射群であった。


ホテルが石巻駅からほど近いところだったのと、関西大学の遠征組に加えてもらってレンタカーに乗せてもらったため、強行軍の割には疲れ果ててしまわずに試合に臨めた。
この射撃場に来るのは7年ぶりくらいになろうか。国体で初優勝し、クラブ対抗で現在も破れない三姿勢の自己ベストを撃った思い出深い射撃場である。
当時、こんな建物を射撃のために建てることが出来るのか、と驚いたものだったが、今も変わらず美しく、選手控えのスペースがゆったりとある、快適さもそのままだった。


強行軍になるからと、段取りをリハーサルしておいたお陰もあって、スムースに銃器検査を通過して射座に入った。
しかし、メンタル的には落ち着きすぎていて、上手く試合のモードに入れない。必要な緊張感や気合がうまく湧いてこないまま試合が始まった。
銃の静止レベルは、悪くないがどことなく不注意な撃発が多い。しかし下意識に委ねなければならない部分なので、あまり意識の介入をさせるわけにも行かず、当たっていないわけでもないので、そのまま続けた。
1シリーズを終盤のトリガーミスで98で終え、2シリーズ目を100ペースで来た8発目に、その災いが形になってしまった。とんでもないところで指が反応して7。
このシリーズを97としてしまう。


普通に準備していれば、おそらくそこまでに築いて練習してきたパフォーマンスをそのままに発揮することに専念する、ということが全日本選手権などという大舞台ですべきことの全てなのだが、残念ながら全くそのような状態で臨んでいない。
1月のランクリストで、ひとつの達成点を見たが、それはそれとして保ちながら、その後、そこで見つけた軸と照準についての曖昧な点を模索するモードにすでに入っている。
解決するための練習があまりできないまま、そのヒントを幾つか抱えながらここに来て、今日もその打開を試合の中ではかろうとしている。
今年のナショナルチーム員ではない私にとっては、この試合は、重要であってもそういう試合でもある、とどこかで割り切っている。
1・2シリーズで表向き、先述のような格闘をしつつ、模索していたのは「軸」の方の模索だった。


この大会に向けて、備えらしい事は深夜寝る前にバランスボードに乗ることくらいだったのだが、そこで気がついたことがあった。
腹−背面のバランスをどうとるかに焦点を当てたとき、これまでは立射の姿勢において、身体を「脚」・「体幹」・「頭」と区切って把握していたのだが、どうもこれが、バランスをうまく取ろうと反応している身体の状態とは違うように感じた。
「膝-胸骨」がひとつのユニットで、「それより上」と「それより下」という把握が取られているように感じ取れるのだ。
実際はどうかよくわからないけれど、スキーのジャンプ競技の選手が、ジャンプ台から飛び出した後の空中姿勢が、そうなっているのではないか、と直感的には思っている。
射撃において、私が問題だと思っているのは、据銃の繰り返しの中で、自分がイメージしている身体構造像で捉え切れていない部分が、疲労から沈んでいたりつぶれたりしてきても、気がつかなかったり、ぼんやりとした違和感を覚える程度で過ぎてしまうことである。
高い再現性につながる「身体把握」と、それに適合した姿勢の構築手順は、出来上がる姿勢が外見上同じ構造であっても、常にばらしては1から再考し続ける課題である。
それを、(練習機会がないので)試合の中でいちいちテストしながら撃っているわけである。


言葉にしてみると、まあややこしいことをしながら、よくも一見そこそこの点数で安定しているものだ、とわれながら感心する。
これは、1月のランクリストで達成した技術が、非常に汎用性が高くて、そういうごちゃごちゃも含めてよくカバーしてくれているお陰であろう、と思う。


第3シリーズは、こういう模索の、失点まで行ってしまう揺らぎが多く出てしまった。96かな、と思ったが1点ぎりぎりで拾ったようで97。
第4シリーズからは、新しい身体把握での軸つくりが軌道に乗って、一気にパフォーマンスが上がる。スコアこそ99・99・98と4点の失点があったが、総じて深いセンターが多く、100を意識できる内容だった。


スコア的にはやれやれの588。
全日本選手権では、決勝進出は危ういなと、思って結果を見に行くと、有力選手が多かったはずなのにその射群ではトップだった。
あれれ、である。みなさんちょっと情けない。
最終的に3射群全てを終えて、自衛隊体育学校のMくんが1位で、私が2点の間にひしめく7人の先頭で2位という結果だった。
これまで幾度も並んで立ってきたファイナルのスタートポジションである。


しかし、ファイナルは今回はさっぱりだった。
1位とは離れていた。しかし7人が2点に犇めいていてその一番上にいるというのに、下位に逆転される可能性もあまりよく考えないまま、順位への執着もあいまいに、ぼんやりスタートしてしまった。
初弾にいきなり8.8を撃ってしまうと、あれよあれよという間に2発目で最下位に落ちてしまった。
そのまま9発目まで最下位。最終弾で辛うじて6位に浮上して終わった。
6発目からは、普通の状態に戻ってすべて10点以上でまとめたのだが、隣のY君に比べて10点の浅さが際立っていた。
順位的にははじめの2発で「終わって」しまったため、それ以降は10.7以上の深い10点を意図して取ることに集中したのだが、2発の10.5止まりだった。
この辺は、「技術」として明らかに欠けていることを痛感する。


あわよくば、2位くらいに、という甘い考えは、しっかり課題を突きつけられるかたちで流し去られた。
ここまで、禄に準備もできないまま、「相対的に」いい成績を取りすぎてきたともいえるので、良かったのかもしれない。
体裁を整えて「2位」ばかり取り続けるのではなく、ちゃんと「優勝」を狙おう、という気持ちが、再び湧いてきた。


築いたものを発揮することだけに集中する、という本来の大会参加の仕方を、来年もここ石巻で行われる全日本選手権では、してみたいものだ。


[fin]