iMovieHD


卒業式が間近に迫ってきた。


生徒や先生が、写真を背景にマイクでひと言思い出を語る、パワーポイントを使ったスライドショーと、卒業生の退場後に、会場に残っている保護者や在校生に見せる「エンドロール」をすることになった。
こういうのは、「情報」と「流通」なんぞを担当していると、おのずと「できる?」と回ってくる。


この業界だけなのかも知れないが、機器の操作には長けているけれどセンスが悪い、という人が割に多くて、こんなんだったら俺が作ってやるのに…、と披露されるものにがっかりすることがままあるので、大変だけれど回ってくるのは大いに結構。
顔には出ないように張り切って引き受ける。


パワーポイントのスライドショーは、生徒に自由に今までの写真のストックの中から写真を選べる機会を作ってやる手間と工夫だけすれば、自ずといいのが出来上がる。
画像の処理などは、「処理」ともいえないくらいに簡単なことである。


問題は、エンドロールの方だった。
これは、ちょっと保護者の皆様に感涙に咽んでもらわなければならない。
面と向かっては言えない「感謝の言葉」を、国語で生徒に書いてもらっているので、これと、卒業アルバム用の写真業者に撮ってもらった笑顔の写真と組み合わせて、シンプルかつ感動的なスライドムービーとなるよう、あれこれ考える。


勝手知ったるMaciアプリケーションで作ることに決めたが、ムービーに仕上げるまでの下作業がなかなか大変である。
44人というのは、繰り返して作業するには結構な人数である。
まずアルバム用の写真画像を、同じサイズの角丸の四角形に切り出す。
この単純な繰り返し作業は、操作方法に慣れた軽いアプリケーションで作業したいな、と思いめぐらすと、Windows2000マシンの古いバージョンのOfficeについている「Microsoft Photo Editor」が一番向いていることに思い当たる。
新しいOffice2003以降の「Microsoft Picture Manager」は、トリミングのメニューの自由度がすごく減っていて角丸には切り出せないのだ。
久しぶりに古いマシンで作業をする。


次は、コマを1枚ずつ作る。
背景になりそうな印象的な桜の写真を、ネット上の著作権フリーの画像集を幾つか当たって集め、使いたい縦横比で今度は「Microsoft Picture Manager」で切り出す。
素材がそろったので、Illusutratorで背景・切り出した写真を配置してまずは各クラスごとの原版をつくる。
さらにこれらの黒い無地にした右半分について、無地・メッセージの入ったもの・名前も入ったもの、の3パターンを44人分作りこんでいく。
つなぎとなるクラス名を示す画像を挟んで、ざっと150ほどの.aiファイルができたら、それらをPhotoshopで、次々JPEGファイルに落とす。


ここでようやく、iアプリケーションを使うことになる。
まずはJPEGファイルを、まとめてiPhotoに読み込む。アルバムにまとめて、順番などを整理してしまう。
そうしておいて、iMovieHDで、iPhotoのアルバムごと取り込んでしまう。全てのカットが同じ長さのスライドムービー・プロジェクトがひとまずこれだけでできてしまう。
あとは、BGMに使いたい曲の長さに合わせて、一人を何秒になるかを割り出し、読みやすいタイミングなどをいろいろテストして各コマに割り振る時間を決める。
トランジションの設定には前後のコマに時間の余裕が要るので、時間が決まってもいきなりその時間に切り詰めず、先にトランジションをつけてやるのがコツだ、ということを思い出すのに随分時間がかかって、無駄に悪戦苦闘してしまった。


昔のMacでは、PhotoshopIllustratorを使うとすぐに作業負荷ぎりぎりになってしまって、反応が悪くなるばかりでなく、フリーズはしていないけれどある操作が反映されなくなったりすることがよくあった。
やれやれ、とそこで保存して、アプリケーションだけ再起動したり、時にはOSごと再起動したりすると、ふたたび息を吹き返してその後は問題なく作業できる。
このごろは、反応が悪くなるところまでは行っても、こういう現象がPhotoshopIllustratorで起こる事はなくなったので、忘れかけていたけれど、ムービーの編集はひとつのファイルで数ギガのプロジェクトをいじるだけあって、「あれ?」という状態が時々現れた。
若干昔を懐かしく思い出しながら、保存と再起動を挟んで作業する。


静かにひとりひとりの感謝の言葉が、美しい桜を背景にした笑顔の写真を横に、シンプルに黒地に白文字で浮かび上がるムービーができた。
6分程度のものだけれど、原画の作成から含めると20時間ほどつぎ込んだことになる。
素人の私には、数年に1度のチャレンジだが、動画編集は本当に「時間の缶詰」だと思い知らされる。
感涙を誘うメロディは、「小田和正」に勝るものが思いつかず、オフコース時代の楽曲を再録音したメロディを使わせていただいた。


美しい澄んだ歌声とともに、教え子たちの笑顔が次々に浮かび上がる完成作品を眺めていたら、しんみりとしてしまった。


[fin]