冬季デジタルピストル大会

デジタル射撃大会



学生射撃は半世紀以上にわたる歴史において、「ライフル」だけを相手にしてきた。
「ピストル」は、保安上危険な銃器として、所持が空気銃に至るまで厳しく制限されてきたために、学生が競技する事はこれまでほとんどなかった。


日本は射撃でオリンピックのメダルを、金も含めてこれまで5つ獲得しているが、そのうち4つまでがピストル競技によるものである。
競技者の裾野を、警官と自衛官周辺に限りつつ比較的高い水準を保っている。昨年の北京五輪でも日本選手の入賞はピストルの方で、概してライフルよりもトップに近いところに選手がいることが多い。
競技普及と人材発掘の面から、銃刀法的に装薬銃の厳しい所持制限は保ちつつも、空気銃については裾野を広げうる法改正と、学生射撃へのピストル競技導入は、射撃界の長らくの悲願であった。


先般の銃器の悪用を伴う凄惨な事件や取り扱いの過失による死亡事故などによって、今年の秋に銃刀法はさらに厳しいものに改められる。
その中で、管理方法について、法令としての明確化が行われるとともに、空気けん銃について競技者育成のための「教習射撃」制度が初めて位置づけられることになった。
所持に対する厳しい制度は維持、あるいはさらに厳格化される一方で、練習や選抜をする可能性が生じたことになる。


海外遠征、それも特にジュニアや大学生を対象とする国際大会に行くと、日本チームが関わるのはライフルだけでピストルやクレーは縁がない。全種目にエントリーしてくる国と比べると常に3分の1の小さなチームである。
たくさんに参加すれば良いというものでもなく、私個人としての興味関心は、出場している各選手の技量が通じるかどうかにしかないので、「総メダル数が」とか「選手団の大きさ」なんて話には、興味があまりない。
しかし確かに、他国からはピストルの方が強い国と思われているのに、ピストルのことなんか全然知りません、という選手団ばかりを送り出すというのは変だ、とは思う。
同じ「ライフル射撃」でありながら、異なる適性が発揮される点で、ピストル競技自体への興味・関心もある。


そんな私の心情は別にして、法的なこういう変化を迎え、学生射撃について多少の責任がある立場から、これに対応した体制作りに取り掛からなければならなくなった。
何もないところから、関心を引かせるところからスタートし、さらには、今取り組んでいるものから、新しい「それ」に軸足を移させるところまで持っていく、というのは大変なことである。
うまく動き始めれば「ピストル」をするために射撃部に入部するものが出てくるはずだが、今は、「ライフル」をしよう、それが射撃だ、と思って入ってきた人材と、数十年にわたってその強化しか考えてこなかった先輩たちしかいない。
そんな中で学生連盟がいきなり選手の選抜や育成をするのは、具体的に競技に取り組む道筋や、練習・指導のノウハウを「見せる」という意味合いが大きい。


関西は、すでにここ5年ほどデジタルピストルを用いた「公式」の競技会を学生連盟試合の中に位置づけて行ってきており、遊び半分とはいえ「そういうものがある」という認識は広まっている。
今回の具体的な法制度の変更を前に、今年からさらに、講習会を定期化し、強化指定選手を定めて、APの所持を進めるとともに、具体的に来年のユニバチャンピオンシップ派遣を視野に入れることになった。いよいよ各大学射撃部の中に「ピストル」射手の入り込む余地を作っていかなければならない。


今日はその「強化指定選手」の選考を掲げて、デジタルピストルレンジを持つ國友銃砲店において、冬季デジタルピストル大会が開催された。
この取り組みにおいて中心的に動いてくださっているN監督とともに、「代表チームの(一応)監督」として同席することで、学連として本当に本気だよ、というメッセージを参加者に伝えつつ、講習会の手伝いをさせていただいた。


まだどの選手も技術的な知識もなければ、普段の練習手段もないまま、素人同然で撃っている。
4射群にわたる競技会を行いながら、その裏で、撃っていない選手たち相手に、基礎的な技術について実技も含めた講習会を行う。
どちらかというとこちらの方がメイン、と私たちは考えていた。
今日やこれまでの点数はあくまで参考にしながら、それよりもアンケートに書かれたことばや、講習会での様子から読み取れる、ピストル競技への意欲と、わからないなりに試行錯誤している姿から嗅ぎ取れる素質の影で、強化対象とする選手を選考した。


N監督は自身が、当時は大変珍しい、学生時代からのピストル射手でもあり、技術についての情報のない中で苦労してきた経験をお持ちである。
私はN監督と、昨年一緒に公認コーチ講習の専門教科を受け、その際にピストルについてもじっくり講義を受けた。
日本で唯一のピストル教本「オリンピック・ピストル・シューティング」の刊行を手伝ったことがあり、(現在の第2版ではなくなってしまったけれど)初版ではあとがきに名前を連ねてもらったりしたこともある。
しかし私は、ピストルについて競技した経験は、ない。


選手たちは内心、ライフルはともかくピストルについてはどうなんだ、と私を見ているかも知れない、と思う。しかしまあ、それはそれでもいいと思っている。
ナショナルチームにいたころにFさんに、経験の有無が、本当の意味で、指導やコーチをできるかどうかを決めるわけではない、と言われたことがある。
産婦人科医は、自らがもし男性で出産ができなくても、お産についてスペシャリスト足りえるように、競技者でなかったとしても超一流のコーチ足りえることがなくてはならない、と。


それほどに、大げさに考えているわけではないけれど、巡り会わせでこういう時期に重要な役割を担うことになったことは、何かの縁として、楽しみながら頑張ってみようと思っている。
私のライフル射撃の技術にとっても、必ずプラスとなる予感がある。


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