惨敗

決勝会場



静かな広間でぐっすりと寝ている間に台風は去っていた。
小雨は降っているものの、空は明るく少ししたら晴れてしまいそうだ。
そんな上り坂の天候とは裏腹に、体は重く、心は無常感に捉えられ、すべてが空しく見えた。
奮い立たない自分を、少し宿の周辺を散歩したりしてあやし、なんとか元気に朝食をとって試合へと向かう。


50m3×40M。
3時間半におよぶ競技射撃の王道種目だ。
これまで、この難しい種目で器用に上位に食い込むことで、存在感らしいものを作ってきた。


しかし、今日は散々だった。
伏射ではいきなり満射を出したものの、失速。立射は途中でスタミナ切れを起こし、ここしばらく高いところで安定していた膝射まで想定していなかった崩壊を起こした。


試合では、文字通りに「頑張って」もだめで、「自分の中にある技術をスムーズに発揮することだけに集中すること」が試合で「頑張る」ことなのであるが、今の私からは何も出てこなかった。
「屋台骨が腐っている…」
そんな風に思った。


日常の中に射撃の歓びも怒りも執着も位置を占めることはかなわず、疲弊している。
試合後に唇を噛み、一番射撃に力を割き、不満を抱きつつもこれまでの中で絶頂であったときに、光を当ててもらえなかったことを恨む自分がいた。
ダメになってしまった自分をただ寂しく、外部の目から眺めていた。


少し気を取り直して弁当を食べていると、実業団のコーチに声をかけられた。言葉を交わすのは久しぶりだった。今は、自衛隊体育学校などの選手たちと真っ向勝負してトップになってやろう、という以前のような状態や気持ちとは程遠い状況であることを、話すことになった。


今は、仕事からの逃げ場でもいいじゃない。それがこういう舞台なら、それはなかなかぜいたくなことだ。じっとやめずに続けていれば、仕事やいろいろなことが一段落したときに、また活躍できるようになるでしょう。今の状態でも10mではそこそこ太刀打ちできているのはすごいことだ、と励ましてもらった。


自分の中でも用意していた言い訳とおなじなのだが、よく知る人に実際に言われることで心は落ち着いた。


台風一過。
雲間の薄い青空と、差し込む陽光に目を細めながら、にぎやかに大阪への帰途を辿った。


[fin]