お気楽コーチ


私は、ある国公立大学射撃部のコーチをしている。
監督は現場から遠く、主に対外的に困難な局面が訪れたときの相談役として頼っている。

部は明日から広島でほぼ1週間の合宿をする。たとえ私がチーム唯一のコーチであっても、平日に仕事を休んでまで見に行くことはできない。メニューと注意点を詳細に示したら、後はほったらかしである。


もちろんそれだけでは技術的に「途方に暮れてしまう」ので、休みの時に講習会のようなものを開いたり、一緒に練習をしたりして「何をどう頑張ったらいいか」を実地にそれぞれの部員に伝えようとはしている。


今日は、この合宿で初めて50m競技に取り組む部員2人を前もって練習させるために、3-4回生の部員が連れてきていて一緒に練習をした。
新しい姿勢に取り組むのはなかなか難しいことなので、こうやって合宿前に教わることができるかどうかが、合宿を有意義なものにできるかどうかを大きく左右する。
この2人は、きっと1週間の練習時間を「休むに似たる」考えに費やすことなく「練習」に使うことができるに違いない。


私大の射撃部コーチや監督に知り合いが多くいて、よく話をするが、おおよそこの時期は推薦で獲得する有力な新入部員の勧誘や受験手続きに忙しそうである。高校の全国大会に自腹で出かけては、ほかの大学と競って優秀な選手に声をかけ、入学を勧めるらしい。成績については相当に大学当局から注文があって、なかなか大変なようだ。彼らのエネルギーはほとんどが「新人獲得」に費やされてしまうかに見える。


私は彼らからすると、割いている労力の量の面でお気楽なコーチであるばかりか、お気楽なりに割いている労力のほぼすべてが「技術指導」という、まったく幸せ極まりないコーチ、ということになる。
基本的には「親はなくとも(ある程度)子は育つ(力がある)」。ささやかな指導やアドバイスが要所をきちんと押さえられていれば、きちんと強くなれるんじゃないか、と結構本気で思っている。


今回のささやかな準備を終えて、お気楽コーチとしては「いい合宿を送ってくれるように」とただ祈るばかりである。


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