ひそかに再スタート

朱啓南の立射(ISSF TVより)



最近、ISSFがアップしているワールドカップのファイナルの様子を映した動画をよく見ている。


ISSFは、ISSF TVを開設するなど、映像で競技の様子を伝えることに力を入れてきていたが、昨年の世界選手権でそれがひとつの到達点に達した。今年はファイナル競技ルールの変更が完了して、その体制が十分に効果を発揮できるようになった。具体的には、競技進行をする役員と順位変動をアナウンスするアナウンサーが協力して進行することや、1発ごとに説明を加えることを可能(というよりも、そうしなければならないという義務)にし、編集なしでファイナル競技が「映像コンテンツ」になる素地ができた。これを受けて(だろう)、今年から、ノーカットのファイナル映像がYouTubeにアップされている。


1種目あたり3分程度のダイジェストだった去年までと、30分以上にわたる解説付きの通しの映像では、情報量が雲泥の差で、何というかもう、食い入るようにして見てしまう。
今年に入って私は、ISSF NEWSを訳して紹介する、というのをすっかりやめてしまった。日本語になおして紹介するほどには全然読めていないから、というのが主な理由なのだけれど「(すでにとっくに終わった大会とはいえ)試合の展開を紹介する楽しみ」が、この映像で取って変わられてしまった、と感じたせいでもある。


クラブ対抗でひどいパフォーマンスをやらかしてしまって消沈していたのだが、だからといって射撃が嫌になったわけではなくて、世界最高峰の選手たちの姿をつらつらと眺めていた。ものがモノだけに、見れば何かがあるもので「ああ、そうか」と気づいたり気になったりすることが出てくる。と言っても、何か新奇なことが見つかるわけではない。もう知識としては昔から知っていることについて、自分の理解や適用のしかたの「問題点」が見つかる、というところだろうか。今回は「自然狙点」に対しての自分の詰めの甘さと、使えずに寝かせたままの新しいジャケットはこうやったら使えるんじゃないかという可能性、の2つが気になった。どうにも確かめたくなって、昨日、子どもの昼寝の間だけ、ノプテルを引っ張り出した。今日は今日で、実家に相方と子供たちを残して、午前中だけ家に戻り、ノプテルで練習させてもらった。


ジャケットは、同じ採寸表で作っているだけあって、各パーツのサイズは今まで使ってきたものと同じであるし、普通に袖を通すだけならそう違和感はない。ところが、構えようと肘を持ち上げると、肩周りや胸のあたりが浮き上がる。よく見比べないとわからないが、微妙に胴部と腕の付き方が変わっている。ただ、主な原因はこの微妙な形の違いよりも、素材の変更の方にあるのではないか、と見ている。
「硬さ検査対策」でコットンの割合がぐっと下がってポリエステルが増えている。はじめは柔らかくても、汗をかくとコットンはそれを吸って、試合後には硬くなってしまい、フォローアップ検査に引っかかる恐れがある。それを嫌って水の影響を受けにくい、いわゆる「プラスチックっぽい繊維」にしてあるのだ。この変更で、厚さや触れた硬さの印象が以前のものとあまり変わらないままに、検査で余裕を持ってパスすることができるようになっている。しかし以前のもののように、使うにつれて体に馴染む、という感じがなくなり、若干ペコペコパコパコして体の表面に載っかるような具合になっている。選手としても優秀な銃砲店のMくんによれば、この変更を嫌う選手が海外には多いようだとのこと。Mくんもこの変更を機に違うメーカーのものに換えてしまった。トップブランドには、ポリエステルを増やさずコットン主体のまま、それが水を吸って硬くなっても検査に通過できるよう、全体に柔らかくなることを承知の上で思い切って薄い生地にしてしまったところも多い。
じゃあ、トップ選手はみんなプラスチックっぽい繊維のジャケットを使っていないか、というとそんなことはない。例えば、圧倒的な強さと層の厚さを誇る中国チームは私と同じブランドのこの手の物を使っている。


その辺りの「変更」の影響を受けやすい撃ち方と、受けにくい撃ち方、というのがあるんだろうか、と推測しながら見ていると、立射を構えるファイナリストたちの左肘と左肩のポジションの傾向にその辺りの答えらしきものが見つかった。真似をしてみると、新旧どちらのジャケットでも感覚にほとんどかわりがなかった。ノプテルの軌跡は、いい時と悪い時がはっきり分かれる感じだが、いい時はこれまでのいい時と遜色ない。大雑把な「真似」なので、他の部分とすり合わせる作業がこれから必要だけれど、どうせ谷底にいるんだし、ちょっと試してみるか、という気になっている。


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