ISSF NEWS 6:2009

ISSF NEWS 2009-6



今号は、昨年末、クリスマスに届いていた。
正月休みが明けて、通勤列車の中でさっと読んだのだけれど、軽くとはいえPCに打ち込んで紹介するとなると、随分と敷居の高いものである。すっかり掲載が遅くなってしまった。ちょっとこの分量で紹介をこれからも続けていくのは荷が重い。


ISSF NEWS 6:2009

COVER PAGE


表紙は、ジン・ジョンオ(秦 鍾午:JIN Jong Oh)。2008北京五輪以来この2年、世界でダントツの強さを誇り、無敵状態の韓国人ピストル射手である。
北京五輪では10m、50mでともにメダルを獲得し、国際スポーツプレスの投票による2008年の最優秀射手。この2009年も、ワールドカップシリーズで金2銀1を獲得し、先ごろのワールドカップ・ファイナルを10m・50mともに優勝して、最高の形で締めくくった。1年間を通じて最も活躍した射手を表彰するアスコーカップを獲得した。
「ライバルたちは、ちょっと手が付けられない、と感じている。彼を超えていくことができるのは、さらに高いスコアを目指すジン自身だけであるかに見える。オリンピック出場権(QP)の獲得競争が始まる来年(2010)の彼の活躍が楽しみである。」と紹介は締めくくられている。

ISSF ACTIVITIES

ISSF MEETING IN MUNICH

2009年11月6-7日に、今年のISSF主催大会を開催した主催団体と来年以降の開催予定団体の代表者を集めた、第7回のワークショップがミュンヘンヒルトンホテルで開催された。


年々、このワークショップへの参加者は増えており、重要さは増しているようだ。今回は85以上の参加があったという。ワークショップの詳細な報告については、各国の事務局(日本なら日ラですね)にISSFメディアコーディネーター、マルコ・ダラ・ディー(Marco Dalla Dea)によるレポートが送られているので、それを読んでください、とのこと。


大会の運営の中で、ルールや運営技術、競技自体はブラッシュアップされていくわけであるから、その現場の主催者と主観組織が情報を交換する会議が重要性を帯びてゆくのは理解できる。今後の大会でテクニカルデリゲートを務める予定の人にも参加を強く呼びかけられている。ISSFの副会長、ゲーリー・アンダーソン(Gary Anderson)が、このワークショップの中心になって組織・牽引しておられるようである。


このメインのワークショップ後、部門別の委員会(ライフル・ピストル・クレー・ランニングターゲット・選手会・技術委員会)が直ちに行われた。
新ルール下での初年度となった2009年の活動を巡って、活発な議論が行われたようだ。選手会のメンバーは、選手会としての会議を終えるとそれぞれの部門別委員会に散り、選手仲間から集めた意見を伝え、問題提起を行っている。


ミーティングでは主に、この夏のミュンヘンでの世界選手権と、シンガポールでの初のユース・オリンピックに向けた準備が活発に行われた。
最後に、ISSFとしては、今年を振り返り、充実した大会開催ができたことと、ランニングターゲットが(オリンピック種目から外れた不幸はあったが)独立した世界選手権を開催できたことを喜び、新年とクリスマスを祝う言葉で記事を締めくくっている。


以下は、項目ごとにまとめられた詳細記事。

7th ISSF Championships Organizers' Workshop

ISSFの事務局長ホースト・G・シュライバー(Horst G Schreiber)によって、ISSF会長オレガリオ・バスケス・ラナ(Olegario Vazquez Rana)を迎えて開催された。出席者は、2009,2010,2011のISSF大会主催者。
開会に先立って、このワークショップの重要性が増していることと、先日のIOC総会において会長と共に受けたISSFは高い評価を得て、2012年の五輪でも390の出場枠(Quota)が維持できる見通しが立ったことが事務局長から伝えられた。
副会長ゲーリー・アンダーソン(Gary Anderson)が、ISSFメンバーの各国・各スタッフのチームワークや協力体制がよくなってきている手ごたえと、感謝を伝えるとともに、選手と観客にできうる限り最高の選手権を提供し続けることの決意と、そのための協力・小さなことも見逃さないたゆまぬ改善への努力、を強く訴えて締めくくられた、とある。

Supporting The Organizer

国際大会を成功させるための情報交換が、年次ミーティングで行われた。今年(2009)の主催者とISSFの専門委員が、2010年度,2011年度に大会の主催を引き受ける人たちに様々な情報を提供する。ここでは2012年のロンドンオリンピック競技会長ペーター・アンダーヒル(Peter Underhill)から、五輪大会会場についてのプレゼンテーションも行われた。
2009年の各主催者から挙げられたレポートを元に、今年の競技会における運営上の成果と問題点が分析された。選手会からも選手会長である、フィンランドのユハ・ヒルビ(Juha Hirvi)が2009年の競技会における問題点を伝え、委員がこれに耳を傾けた。


副会長ゲーリー・アンダーソン(Gary Anderson)ばかりでなく、ライフル・ピストルのスケジュールについて担当したマックス・ミュッケル(Max Muckel)からも、クレーについて担当したペトロ・キリ(Petro Kyritsis)からも、ここで繰り返し強調されたのは、「大会プログラムを慎重に計画すること」・「準備をしっかり行うこと」・「選手と役員にその内容を効果的に伝える努力をすること」・「期限を遵守すること」の4点であったようだ。
「issf-sports.org」の「organizers' section」に今回の詳細なレポートとISSF Guidelines for Organizersを発表するので、それを必ず見てほしい、と締めくくっている。

Information: ISSF Entries and Result Services

情報が常に更新されることと、その信用が国際大会運営においては鍵を握っており、主催者にとっては情報システムがその根幹のひとつとなる。
ISSF Entries ServiceとISSF Result Serviceについて、ISSF運営会議のデレック・アイビー(Derek Ivy)とISSF本部のジャン・ケツェル(Jan Ketzel)から説明が行われた。
オンラインで登録作業を行うのが最も安全で正確である。ISSFの競技会において、すべての選手・役員はISSF Entries Serviceを通じて申し込み・登録を行わなければならない、ということが強調されている。

Anti-Doping: No Effort Should Be Spared

ISSFアンチドーピング顧問で、ISSF医事委員長ジェイムズ・ラリー(James Lally)の下でこれまで働いてきたジャニー・スブリエール(Janie Soubliere)が、解説を行った。
ISSFのアンチドーピングコードは、国際標準に完全に対応しており、すべてのISSFによる競技会にこれが適用される。2009年は、28件の競技会外検査と426件の競技会検査が行われ、国際大会において2件の制裁措置を下した。
主催者に対して検査方法についてのWADAの文書に通じておくことの必要性と、ファイナルおよび予選でも世界記録が絡んだ場合に必ず検査がある、ということを前提に事前に備えておくことの必要性を強調している。
また、アンチドーピングを周知・教育していく取り組みに重きを置くため、ISSFのサイト上に新しいページを設けるとともに、このISSF NEWSにも定期的に記事を掲載していく、として一文を締めくくっている。

Rules And Jury

ISSF技術委員長デイビッド・パリッシュ(David Parish)がルールブックの最近の改正点について解説した。
2009年のシーズンでルールにおける問題点がいくつか浮上したが、ほとんどが小さな変更と条文の見直しで済んだと報告するとともに、ISSFのウェブサイトから最新版と正誤表をダウンロードして、ルールブックをアップデートしておくように、と強く勧めている。


ISSF審判委員長のケルスティン・ボーディン(Kerstin Bodin)から、2009年のジュリーの任命状況と業務状況について報告があった。
2009年度は34ヶ国からジュリーが選出され、女性が15%を占めていた。報告の中で、将来的にはもっと女性の役員を増やさねばならないという考えが述べられ、各主催者に対して、国際経験を積むことに意欲のある審判を、ジュリー以外でも積極的に参加させるよう呼びかけている。
また委員会として、テクニカルデリゲートやジュリーからの意見を積極的に取り入れる姿勢であることを伝え、スタッフには運営技術の更なる改善、高い水準での維持を求めている。特に、スムーズに英語でコミュニケーションを取れるように言葉に対する意識的な努力・ルールの習熟・入念なリハーサルの必要性を訴えている。

Operative Info: Sharing ISSF Know-how

いくつもの小さなグループ分かれて、実習を伴ったミーティングが行われ、選手権運営上の細かいノウハウが、専門委員や習熟した経験者によって、次の主催者たちに伝えられた。


ISSFライフル委員のアアド・マラニック(Aado Maranik)からは、銃器・用具検査の方法について説明が行われた。
ライフル競技についてはISSFライフル委員長のトミスラフ・セペ(Tomislav Sepec)が、またピストルについてはスーザン・アボット(Suzan Abbott)が中心となって、各射場における大会の進行方法についてのディスカッションが行われた。
クレーについては、ISSFクレー委員のキース・ムライ(Keith Murray)によって競技会の進行についての実習が行われた。ここでは、よく訓練された役員が複数いなければ、スケジュールどおりに大会を進行できないこと、幾度も役員としての訓練とリハーサルを繰り返すことが必要であることが繰り返し説かれていた。
最後に、ISSF運営委員でもあるリ・フェン(Li Feng)から、2008北京五輪における、ファイナルと表彰式の運営体験が語られた。

Media Coverage: Collaboration Wanted

ISSF TVプロジェクトのコーディネーターであるウォルフガング・シュライバー(Wolfgang Schreiber)とISSFメディア・コーディネーターのマルコ・ダラ・ディー(Marco Dalla Dea)が、選手権をISSF TVで放映するにあたって必要なことや、複数のTVプロダクションから持ちかけられている、いくつかの可能性について語った。
この中で、ISSF TVは国際規格の映像を作る能力をすでに備えていること、大会のハイライトと選手インタビュー、ファイナルのフル映像をすでにissf-sports.orgで配信していること、コメンテーターを国際的な選手や専門家から配して、ファイナルの中継を行えていること、2009年にはすでにいくつかの国際あるいは各国の放送局と共同事業を行っており、手応えを得ていること、が伝えられ、2010年以降の主催者は、大会がテレビで放映されるようにする働きかけや、地元メディアを巻き込むことのために十分な努力を払うよう呼びかけている。

London 2012: The Venue Unveiled

今回のワークショップでは、2012年のロンドンオリンピック競技会長ペーター・アンダーヒル(Peter Underhill)に、五輪大会会場についてのプレゼンテーションを行う機会が与えられた。
大会会場は、グリーンウィッチ(Greenwich)にあるウールリッチ王立砲兵隊舎(Woolwich Royal Artillery Barracks)に面した緑地に新しく仮設される。
射場の位置は、選手村から20分、市街中心部から15分と、市中心部に流れる川に沿ったエリアにあり、射撃競技が行われるのはロンドン・オリンピック会場の中心部である。同じエリアに馬術・バドミントン・体操の会場があり、孤立した競技会場でないことが今回の最大の特徴である。
クレーは、3つの仮設射場が用意される。歴史的建造物が並ぶ風景の前で、最大限魅力的にスポーツを見せる工夫から、鉛とターゲットの回収および競技中の背景を均質にするために立てられる高さ20mにも及ぶ特製ネットは可動式にして、競技の合間に下ろし、美しい景色と一緒に映像に写るようにする、とのこと。
ライフル・ピストルの会場は、50mが60射座、10mが同じく60射座、25mが40射座。2012年の4月末にリハーサル大会としてワールドカップが開催される予定である。


「開催地の中心で射撃競技が行われることを強く求めてきたが、それが実現したことを大変嬉しく思う。これで本当に、選手たちにオリンピックゲームの感覚を十分に味わってもらうことができる」、というISSFの事務局長ホースト・G・シュライバー(Horst G Schreiber)の興奮に満ちたコメントで、記事は締めくくられている。

COMPETITION


Wuxi(無錫)で行われたライフル・ピストルのワールドカップ・ファイナル、北京で行われたクレーのワールドカップ・ファイナル、カザフスタンのアルマティ(Almaty)で行われたクレーのアジア選手権、の模様がくわしく紹介されている。


Wuxi(無錫)のワールドカップ・ファイナルは、大変興味深く読んだ。10種目30個のメダルのうち、9つを中国が獲得し、圧倒的な強さを見せている(2位が表紙にもなったジンの金2個を含めて3つの韓国である)。
女子10mARの武 柳希(Wu Liuxi:中)と尹 文(Yin Wen:中)、男子50m伏射のビヨルン・ベルグ(Vebjoern BERG:ノルウェー)、マイケル・マクフェイル(Michael McPHAIL:米)、ワレン・ポテント(Warren POTENT:豪)のファイナルでの僅差のデッドヒートは点数を見るだけでもその激しさがよくわかる。


この年のシリーズで優勝に絡んだ選手だけが出ている、ということもあるが、男子10mの朱啟南(ZHU Qinan:中)とシディ・ペーター(SIDI Peter:ハンガリー)のランキング通りの1位争い、男子ピストルの秦 鍾午(JIN Jong Oh:韓)や男子50m三姿勢のマット・エモンズ(Matthew EMMONS)ほか、これまでから連覇を続けていたり、さして国際射撃に精通していない私たちにも名の知れた、いわゆる「勝つべき」人が、きちんと優勝したりメダルを取ったりしていることがよくわかる。
「強い」というのは、それくらい「はっきりと強い」、ということなのだ。
秋山輝吉選手がラピッドファイアで銅メダルを獲得し、メダル獲得国の一角に日本が名を連ねているのは、うれしいことである。

DOPING


2009年1月に改定されたOlympic Movement Medical Codeについて、IOC Medical CommissionとWADA (World Anti-Doping Agency)のこれまでの歴史や、たがいに補い合ってきた経過とあわせて紹介している。
新しいOlympic Movement Medical Codeについて、http://www.olympic.org/medicalからダウンロードして一読することを薦めている。

ISSF RULES


クレーの世界では、ISSF公式のスキート・マーカー・テープというのを、射撃ベストの利き手側の前身ごろに、正確な肘先の高さで縫い付けることが必要になったらしい。
正しい肘先の高さの出し方や、その位置に縫い付ける方法が、これでもかというくらい丁寧に写真入りで説明されている。

NEWS


新製品の情報が2件載せられている。
1件は、ザワー(Sauer)の射撃シューズ「パーフェクトスタイルII」と「イージースタイルII」。
もう1件は、SIUSの新しい電子標的「レーザースコア(LASERSCORE)」について。


この2件目は結構大きなニュースではないかと思う。
従来、SIUSの電子標的といえば、ゴムロールを撃って、その音から弾着位置を計算していたが、これは、的枠3箇所に取り付けられた赤外線センサーで光学的に弾着位置を計算する仕組みである。
ランニングコストや環境の問題から、光学式電子標的のメイトン(Meyton)が脚光を浴びていたが、これを精度面・対候面で上回りそうなことが書かれている。
ISSF公式試合で必要なバックターゲットの取り付け部品がオプションで用意されているだけでなく、現行のCU941モデルには、このレーザースコア(LASERSCORE)に対応するソフトがすでに組み込まれており、ターゲット部分だけ置き換えればすぐにこれが使えるようになっているという。今後、国際大会の会場設備は、これに徐々に置き換わっていくのではないか、と思われる。


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